プロセスによって可能性が生み出される時:顧客オンボーディング時に発生する銀行にとっての新たな機会
オンボーディング・プロセスを調整することによって、金融機関は顧客体験の強化、コスト削減、新たな国際的なサービスのための基盤の構築を実現できることをGlobal LEI Foundationのシュテファン・ヴォルフCEOがご説明いたします
規制遵守は、顧客に対して、スムーズかつ煩わしくないユーザー体験(UX)を実現したいという銀行の希望と必ずしも十分に調和しないことはよく知られています。新規の法人顧客のオンボーディング作業は、第5次マネーロンダリング指令(AML5)といった規制により義務化される、包括的なマネーロンダリング対策(AML)、顧客の本人確認(KYC)の点で鍵となるケースであり、一般的に金融機関(FI)や顧客のいずれも望まないほどの行き来が必要となります。
FIについては、顧客オンボーディングのUXは、問題の一部にすぎません。コンプライアンスを確保するために、社内プロセスは必然的に、細分化された時間のかかる作業となるため、社内の効率性が低下してコストが膨らみます。
資本市場で金融取引を行う顧客は法人として、報告用に取引主体識別子(LEI)を取得することを世界各国の様々な規制機関によって義務付けられています。そのような義務化により、規制当局は対象市場に関係する参加者について明確に把握できるため、より効果的なリスク管理を行えます。これまでFIでは、ポートフォリオをより良く監視するためのLEIの採用は広がっておらず、この点は、LEI採用のメリットを実現するにあたり規制当局に一歩遅れを取っています。
LEIの取得プロセスはこれまで、取引主体がFIにより登録される際に行われることが最も一般的で、取引主体がLEI発行組織に直接連絡する必要があることから、取引主体が遂行したばかりのオンボーディング・プロセスの多くが繰り返されます。大勢の顧客にとって、LEIの取得が法的要件であることを考慮すると、こうしたプロセスで生じる重複によって、不満が生じる可能性があります。
FIがこれらの課題を克服してオンボーディング・コスト、効率、顧客体験における様々なメリットを実現できるように、Global LEI Foundation(GLEIF)は、LEI発行プロセスにおけるオペレーティング上の銀行の新しい役割として、「登録エージェント」というものを考案しました。
LEI登録エージェント・フレームワークの紹介
登録エージェント・フレームワークでは、銀行が、最初のオンボーディングや顧客の標準的な契約更新の際に顧客のLEIを取得するために、KYC、AMLなど規制対象の通常業務であるオンボーディング・プロセスを活用できます。つまり、登録エージェントとしての役割を果たす銀行は、法人名と法人登記に関する情報などの主要な識別データを「確認するために」、顧客の代理としてLEI発行者に連絡し、既に実施されているチェックとプロセスを確認できます。
顧客体験と市場での差別化の強化
登録エージェントの役割を果たす銀行は、非常に合理化されていてコスト効率の高い、顧客向けのLEI発行プロセスから利益を上げることができるだけでなく、それにより、オンボーディングおよびライフサイクル管理における顧客体験がより短時間となって便利になります。また、プロセスの重複が解消されれば、顧客が必要な時間とリソースへの投資も減り、最終的には取引による収益回収までの時間が短縮化されます。
登録エージェントの役割を果たすことにより、銀行は、顧客価値を増大させ、市場で差別化を成し遂げる機会が増えます。たとえば、法人のID管理から、法的保証を受けたデジタル証明書付きの電子署名まで、LEIにより実現できる領域において、新たな収益を生み出すデジタル・サービスを開拓するチャンスがあります。
ID管理をリードする
登録エージェント・フレームワークは当初、顧客向けの規制遵守プロセスの合理化を目指すFIの関心を集めると思われますが、その役割は、さらに多くの銀行による注目を促し、資本市場以外でのLEIの自主的な採用を奨励することを目的としています。
登録エージェントはLEIを活用して、社内と社外の異なるソースから取得した取引主体のデータを手作業でリンクづけする手間を省けます。マッキンゼーは、これだけでも、顧客オンボーディングにおける正社員の生産性が向上することで、世界の銀行業界が年間20億~40億ドルを削減できると推定しています。
金融取引コンプライアンスのためにLEIを必要とする取引主体の顧客の範囲を超えてLEIの発行を拡大することにより、登録エージェントの事業の顧客基盤には世界的に知られた顧客が加わるため、そのような顧客のLEIは世界中のLEIを持つカウンター・パーティーやサプライヤーと共に、国境を越えて使用することができます。
これにより、FIはLEIを活用して、世界に散らばる顧客の国際的な信用の問題を解決できます。これは、あらゆる場所のあらゆる取引主体との間でデジタルトラストを確立できる、商業的に中立な規制機関により承認され、標準化されている唯一のオープン・システムです。能力を高める登録エージェントのこのような特性に対する認識が高まっていることから、ID管理における公認のリーダーになって世界中の取引の促進役としての位置づけを目指す銀行が、登録エージェントの役割を引き受ける可能性が高くなってきています。
さらに、LEIがAML報告においてさらに注目を集めて、より一般的に利用されるようになれば、規制当局、特に国境や管轄区域を超えて活動する規制当局は、不正な金融行動を特定して追跡できる態勢をうまく整えられ、それによって企業と一般市民の両方を保護できるようになります。
取引主体へのサービスを行うすべてのFIは、登録エージェントになるべく申請を行うことができます。GLEIFでは、世界の銀行業界に登録エージェント・フレームワークを試す際の支援に積極的に関わっており、現在、お試しフェーズへの参加を希望される金融機関様にはご照会いただくようにお勧めしているところです。
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著者について:
シュテファン・ヴォルフは、2014~2024年にGlobal Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)のCEOを務めました。2024年3月以降は、国際商業会議所(ICC)の産業諮問委員会(IAB)でデジタル貿易基準の調整、採用、取り組みにまつわるグローバルプラットフォーム、デジタル標準イニシアティブを率いました。IABの議長に任命される前は2023年からIABの副議長を務めており、同年、ヴォルフはドイツの国際商業会議所(ICC)の理事にも選出されました。
ヴォルフ氏は、2017年1月から2020年6月まで国際標準化機構金融専門委員会FinTech専門諮問グループ(ISO TC 68 FinTech TAG)の副コンビナーを務めていました。2017年1月、ヴォルフ氏は、One World Identityが選ぶトップリーダー100人のひとりに選ばれました。ヴォルフは、データ処理およびグローバルな実施戦略の確立に関して、豊富な経験を持っています。彼はキャリアを通じて、主要なビジネスや製品開発戦略の発展をリードしてきました。また、彼は1989年にISイノベーティブ・ソフトウェア社を共同設立し、初代専務取締役を務めました。その後、同社の後継企業であるIS.テレデータAG取締役会のスポークスマンに選ばれました。同社はその後、インタラクティブ・データ・コーポレーションに買収され、ヴォルフ氏は最高技術責任者に就任しました。彼はフランクフルト・アム・マインのJ.W.ゲーテ大学で経営学の学位を取得しています。
この記事のタグ:
データ管理, デジタル識別, Global Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF), データ品質, コンプライアンス, ガバナンス, 規制