信頼と技術:デジタル規制を成功させるための前提条件
パートIV:ストレート・スルー・プロセッシングを可能にし、金融犯罪の取り締まりを強化した上で、グローバルなデジタル識別エコシステムに備えるためのLEIの活用方法
世界の金融エコシステムが直面する最大の課題の一つは、完全なデジタル環境への移行を完了させる方法です。この場合、成功したかどうかは、部分的には、金融市場の参加者の識別、および不正の追跡、予測、低減を行う新たなデジタル・システム能力によって今後判断されることになります。
信頼あるシステムと同様に、デジタル金融エコシステムは、その運用の監視とデータ収集を行える監督・規制機能が必要であり、これによりプラスの調整が実現されるでしょう。有効であるためには、単一で統一された全体の調和された側面として、運用と監督の機能を進化させなければならないことを意味します。別の言い方をすれば、規制機能は残りのシステムを支える機能と問題なく併用できる技術を使用する必要があります。
デジタル時代の金融の信頼性を取り上げるブログ・シリーズの最後となる当記事では、この等価の達成に向けて可能な手段を評価していきます。とりわけ、これには、焦点を絞り込んだ早急な対応が求められています。金融エコシステムの現在の規制能力は、この理想像には達していないリスクがあります。そのギャップを縮小できなければ、デジタル環境が進化しても、詐欺師がその手柄を増やし、検挙されず、優位性を広げる可能性があります。
堅固なデジタル規制機能の発展にとって重要になるのは、世界規模でリアルタイムに当事者間の取引を一貫して識別できる能力です。このためには、あらゆるステークホルダーがデジタル識別について単一の共有手段に準拠する必要があります。
デジタル技術:敵ではなく味方である
相互接続された世界では、情報過多によって信頼が損なわれるリスクが存在するため、ステークホルダーは互いの身元確認の際に、不安を和らげるための努力をこれまで以上に行わなければなりません。世界の金融市場に信頼と透明性を生み出すことについて、一部の市場関係者は、規則・規制・監督機関が解決よりも多くの問題を引き起こす原因となっており、「技術はすぐに余剰になる」 ことを示唆しています。同時に、これらの批判的な意見は、金融規制がイノベーションの妨げとなり、デジタル経済にとって致命的な問題になりうると、盛んに懸念も示しています:「金融サービスへのイノベーションの導入の足を一番引っ張るのは、規制です。」(CoinDesk)。
しかしながら、規制は、信頼を支える共通の倫理規範を表しているというのが私たちの見解です:「信頼は、一般的な共通の規範に基づく規則的で誠実かつ協調的な行動をとるコミュニティ内で、そのコミュニティの他のメンバー側に生じると想定されます… コミュニティは相互の信頼と共通の倫理規範に依存し、それらが基礎となっています。信頼によって、情報が減少することはありません。」(『「信」無くば立たず』、フランシス・フクヤマ)。
ただ、技術自体が、倫理規範を定義づけることはありません。これは、共通の規範を表明して強制できるようにするための純然たる手段です。このように、技術により規則、規制、監督機関の余剰が生み出されるわけではありませんが、それらが促されたり、また妨げたりする可能性があるにすぎません。
こうした観点から、ステークホルダーの法的なデジタル識別を確立するプロセスでは、デジタル・コミュニティで「誰が誰か」を判断できるようにすることが基本的要件となってきます。「共通の倫理規範」は、コミュニティ内での容認可能な行為を決定します。そのため、個人や取引主体の識別によって、共通の価値観に沿ってコミュニティが権利と義務を割り当てられるようになります。
目標モデル案
GLEIFは、デジタル主導の金融規制の精神を取り入れて、統合するために必要な目標モデルは中核となる強力な取引主体識別を備える必要があると提案します。具体的には、金融エコシステムは、取引時点ですべてのエンドポイントの識別と確認と、コミュニティ全体のプライバシーとセキュリティのメリットを実現すべきなのです。
GLEIFは、目標モデルによって2つの固有の概念を統合すべきだと考えています。1つ目は、自然人の自己主権型アイデンティティは、データをどのように、いつ、誰に対して明らかにするかの管理と共に、個人データの所有権を持つ所有者のアイデンティティを示しています。2つ目は、関係や個人の果たす役割(取締役、CEOなど)を識別して個人と取引主体をつなぐこと。
このモデルでは、個人や企業などの別の取引主体のいずれかに法的なデジタルアイデンティティを割り当てるために法的権限が必要です。このようにアイデンティティを様々に割り当てられるという事実からは、取引のいずれの側をも確認する透明性の高い精密な手段がもたらされることがわかります。法的なデジタルアイデンティティ自体は、一連の立証可能な特性(または立証可能な主張)で構成され、[登録名] や [登記住所] などが立証可能な主張になります。
アイデンティティの所有者は、取引主体の銀行口座の開設などのデジタルサービスに登録する際に明らかにする特性を管理でき、デジタルサービス・プロバイダーは、サービスへのアクセス権の付与に必要な特性の種類を強制することができます。
運用と規制を等価にするチャンス
金融取引を監督する規制プロセスは、デジタル化されたエコシステムの運用機能に沿って発展するようにする必要があります。技術によって取引がコンプライアンスの監視・順守の能力を先行するようなことになれば、詐欺師がシステムを欺く機会が増えて、コンプライアンスの費用とプロセスの非効率性の両方が大きく増加すると思われます 。
書類ベースでの手動によるデータベース検索の存在は、両方とも詐欺師に運が向きます。LEIが世界全体で採用・導入されれば、**監督面と運用面の等価を実施できるソリューションになります。世界中で相互運用可能なものを展開して、規制当局から企業にいたるまで多岐にわたるステークホルダーにメリットを提供することは、明快に単純です。欧州連合(EU)の一般データ保護規制(GDPR)、第二次決済サービス指令(PSD2)などの新たな監督規制の策定を知らせる目標モデルにより、現在、LEIの成長のお膳立ては整ってます。こうした画期的な技術が全般的に採用される速度が高まるほど、状況がますます好転していくでしょう。その時になってようやく、デジタル改革の真の力を活用して、金融犯罪の世界的な取り締まりを適切に強化することができます。
GLEIFを創設した金融安定理事会(FSB)は、ブエノスアイレスでの会議に先立って20カ国(G20)の首脳に宛てた書簡において、可能な方法をまとめました:「FSBは、G20が新たな金融技術の恩恵を活用しつつ金融安定に伴うリスクを抑制するように取り組んでいます … より全般的には、FSBと標準化団体は、分散型台帳技術、グローバル取引主体識別子(LEI)、人口知能、様々な決済技術など、広範囲にわたるイノベーションがどのように金融安定を促進し、消費者と企業に広く恩恵をもたらせるかについて、検討しています。」
GLEIFは、これらの目標をすべて支持します。
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著者について:
シュテファン・ヴォルフは、2014~2024年にGlobal Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)のCEOを務めました。2024年3月以降は、国際商業会議所(ICC)の産業諮問委員会(IAB)でデジタル貿易基準の調整、採用、取り組みにまつわるグローバルプラットフォーム、デジタル標準イニシアティブを率いました。IABの議長に任命される前は2023年からIABの副議長を務めており、同年、ヴォルフはドイツの国際商業会議所(ICC)の理事にも選出されました。
ヴォルフ氏は、2017年1月から2020年6月まで国際標準化機構金融専門委員会FinTech専門諮問グループ(ISO TC 68 FinTech TAG)の副コンビナーを務めていました。2017年1月、ヴォルフ氏は、One World Identityが選ぶトップリーダー100人のひとりに選ばれました。ヴォルフは、データ処理およびグローバルな実施戦略の確立に関して、豊富な経験を持っています。彼はキャリアを通じて、主要なビジネスや製品開発戦略の発展をリードしてきました。また、彼は1989年にISイノベーティブ・ソフトウェア社を共同設立し、初代専務取締役を務めました。その後、同社の後継企業であるIS.テレデータAG取締役会のスポークスマンに選ばれました。同社はその後、インタラクティブ・データ・コーポレーションに買収され、ヴォルフ氏は最高技術責任者に就任しました。彼はフランクフルト・アム・マインのJ.W.ゲーテ大学で経営学の学位を取得しています。
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顧客関係管理, コンプライアンス, データ管理, デジタル識別, 顧客の本人確認(KYC), オープンデータ, リスク管理, 規制, 標準