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決済システムにおける取引主体識別子の使用

ビジネス適用と決済システムにおける身元確認


著者: ヘラルド・ハートシンク

  • 日付: 2018-05-30
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電子コミュニケーションは、特に異なる国を拠点とする買い手と売り手との間において、商品サービスの売買を支援するツールとしての重要性が高まり続けています。例えば、銀行は特に、この分野でかなり豊富な経験を持っており、一方で行政は、国内のニーズに合わせて電子政府サービスの開発を一段と強化しています。サプライチェーンが国際的になっているため、請求、顧客の申告および決済目的で取引相手の身元確認を行うためのグローバル標準に対するニーズが生じています。企業、消費者、政府機関はすべて、デジタルおよびグローバル・サプライチェーンにおける「誰が誰か」を把握する課題に直面しています。このため、身元管理の包括的なアプローチが求められています。

このブログ記事は、著者の記事のタイトル 「取引主体のデジタル識別:現状と今後」(The Digital Identity of Legal Entities: Current Status and Way Forward Journal of Payments Strategy & Systemsで公表された記事の抜粋になります(12巻、第1号)。記事全体は、身元管理関連の様々な側面についての詳細な背景情報を示していますが、これは、決済システムでの取引主体識別子(LEI)の使用に着目して抜粋しています。記事全体はダウンロード可能です(以下の「関連リンク」を参照)。

決済システムにおける身元管理

身元管理は、決済スキームのオペレーションやスキームの参加者を管理する目的で電子決済システムにとって常に重要な構成要素です。管轄区域におけるマネーロンダリングやテロ資金供与の対策法に関する金融活動作業部会(FATF)の推奨事項により、決済の身元管理についてエンド・ツー・エンドのアプローチに対するニーズが高まっています。スキーム参加者はとりわけ、顧客のデューデリジェンス、記録保管、電信送金処理の目的のために、顧客のデータを高品質に保つことに対して責任を負わなければなりません。

小売決済システムについては、法律制定(認可決済指図伝達サービス提供者の誕生を背景とする欧州連合(EU)の第二次決済サービス指令)の結果としての決済システムのさらなるアンバンドリングと、オーバーレイ・サービスプロバイダーのような市場の発展の流れが生じています。小売決済スキームの直接参加者と間接参加者およびシステムは、正確な顧客データを(国内または国際間の)資金振替に使用することを保証する必要があります。国内または国際的な決済システムの参加者から集めるデータの品質については、監督機関が認可金融機関に義務付ける高品質基準を満たしていないことがかなり頻繁にあります。

金融市場インフラのための原則(PFMI)の原則22は、「FMIは、効率的な支払・清算・決済・記録を促進するため、これに関連する国際的に受け入れられた通信手順・標準を使用し、または最低限これに適合すべきである」と言明しています。ただ、当原則は、監督機関の要件を満たすために、取引主体にとって、自然人にとってどのような国際標準にすべきか、またデータ品質の水準をどうすべきかについては明確にしていません。ISO 17442 LEI標準は、取引主体にとって国際標準ですが、自然人についてはまだ標準が定められていません。ほとんどの決済スキーム参加者は既にLEIを取得しているため、高品質のLEIをスキーム参加者のファイルに追加すれば、追加コストが発生することなくスキーム所有者(スキーム管理者)のリスク管理が向上する可能性があります。

カードは、オンライン加盟店から商品サービスを購入する顧客にとって重要な識別および決済手段です。カードのイシュアについては、発行カードのためのISO 7812 識別標準にLEIマッピング・サービスを追加すれば、データ品質が向上する可能性があります。カードのアクワイアラー(加盟店管理会社)、カード処理会社、カードのスキームにおける多すぎるコンプライアンス・オフィサーは、加盟店データの品質が決済カード業界セキュリティ標準(PCI)を順守していないとの強いメッセージを送っています。高品質の加盟店データへのアクセスは、サプライヤーの確認(KYS)原則という点で顧客の利益となり、オペレーションリスクの管理を支援するという点でカードのスキーム参加者の利益になります。LEIをPCI要件に追加すれば、アクワイアラーや処理会社がカードのスキームに伴うオペレーション費用とオペレーションリスクを削減することができます。

身元管理のコストとリスク

企業、特にデータマネージャー、コンプライアンス・オフィサー、調達担当オフィサーは、顧客とサプライヤーのデータ管理に伴う相当なコストと潜在リスクに気付いています。

多くの銀行は、政府発行の会社登録番号、VAT番号(EU圏内)、法人納税者番号(米国)またはISO、BIC、DUN、PERM IDなどの業界団体発行の番号のように、同一のビジネスパートナーに対して複数のIDを持っています。さらに、取引主体のグループ構造内での位置付けが明確ではありません。

サプライチェーンのデータ品質に関する課題を克服するために、LEIは、商取引に従事するあらゆる関係者に付加価値をもたらす可能性があります。データの高品質を保証するために、定期的にデータを検証する厳格な制度を持つグローバルでオープンな取引主体識別システムは他にはありません。また、LEIデータ記録により、入手可能な場合は該当する取引主体の直接親会社や最終親会社に加えて、国内の企業登録番号についても判明します。

貿易金融の銀行業務は、LEIを利用することにより、信用状の発行だけで年間5億米ドルを節約することができると推定されています。また、それ以外の恩恵も十分考えられます。

前進への道

サプライチェーンは、一段とグローバルかつデジタルになりつつあります。このため、公的および私的目的で取引相手の身元確認を行う強力なシステムが必要となっています。LEIは、どのユーザーにも無料で高品質なデータを提供する取引主体識別子であるため、有望な候補です。

ウェブ加盟店がウェブサイト(なるべくなら決済ページ上)にLEIを追加した場合、消費者団体のサプライヤー確認(KYS)が満たされるため、消費者のメリットになるでしょう。

他方で企業は、顧客とサプライヤーのオンボーディングや維持管理のコストを削減してオペレーションリスクを減らせるため、サプライチェーンのカウンターパーティがLEIを取得すれば、恩恵を受けるでしょう。

銀行(そしてその他の金融機関)は、企業顧客がLEIを取得すれば、顧客のオンボーディングや顧客データの維持が容易になるため、恩恵を得られるでしょう。銀行は、接続するコルレスバンク、金融市場のインフラ、即時グロス決済システムでメッセージにLEIを取り込めば、オペレーションリスクが低下してリスク管理と流動性管理のコストが低減するために、さらに恩恵を受けるでしょう。

決済スキームと自動クリアリングハウス(清算決済機構)は、LEIを参加者と顧客のファイルに追加すれば、オぺレーショナルリスクが低減するため、恩恵を受けるでしょう。さらに、企業がルールブックのスキームルールや清算メッセージング・サービスにLEIを取り入れれば、企業顧客への優れた決済報告サービスの提供に意欲を示す銀行にとって付加価値が生じるでしょう。企業顧客が信用状振替にLEIを取り込めば、決済メッセージを受信する企業や政府の財務省の資金管理プロセスに必要な決済の照合が容易になります。

カードのスキーム、カードのアクワイアラー、カード処理会社は、PCI要件にLEIを取り入れれば、オペレーションリスクが低減されるため恩恵を受けるでしょう。

サプライチェーンや公共部門のすべての参加者は、自然人に関するグローバルなISO標準の恩恵を受けます。ISO TC 68金融サービスは、LEI標準でなされたように、公的・私的目的での(異なる司法管轄からの)自然人のデータの処理と保管を促すための標準を策定するように奨励する必要があります。とはいえ、自然人にとってグローバル登録機関の誕生は、データ保護の課題があるゆえに推奨されません。

PFMI原則のルール決定機関である、決済・市場インフラ委員会(CPMI)は、社会のために効率的かつ安全で画期的な決済システムを保証するために、効率的な支払、支払の清算、決済、記録に関する取引主体と自然人向けの「国際的に認められた基準」をより詳細に規定することを奨励しています。

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著者について:

ヘラルド・ハートシンクは、金融安定理事会によりGLEIFの取締役会長に任命されました。ヘラルド・ハートシンクおよび他のGLEIF取締役会メンバー全員のプロフィールは、GLEIFウェブサイトでご確認いただけます。


この記事のタグ:
顧客関係管理, データ管理, 顧客の本人確認(KYC), オープンデータ, リスク管理, 標準