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顧客組織のオンボーディング:銀行セクターへの複雑なプロセスの影響

金融サービス事業は、各顧客組織についてLEIを採用することで、KYCプロセスの迅速化と業務の簡素化をどのように実現できるのか


著者: シュテファン・ヴォルフ

  • 日付: 2018-06-12
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2018年5月、Global Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)は 「取引主体識別の新しい未来」。(A New Future for Legal Entity Identification というタイトルのレポートを発表しました。これは、GLEIFと調査機関Loudhouseが最近、共同で実施した、金融サービスにおける取引主体識別の課題に関する調査の結果を概要したものです。レポートでは、バラバラに存在し分断されている情報を広範なLEIの採用に基づくグローバルに受け入れられるアプローチで置き換えることにより、どのように事業取引の複雑さが解消され、金融サービス会社に数量化可能な価値がもたらされるかも示しています。

2018年5月9日に投稿された前回のブログでは、英国、米国、ドイツの銀行セクターの100人を越えるシニア・セールスパーソンを対象とした主な調査結果をまとめました:「銀行セクターのセールスパーソンの半分以上が営業週の27%を新規顧客組織のオンボーディングに費やしていることが判明」(以下の「関連リンク」を参照)。

このブログでは、調査で特定されたオンボーディングの落とし穴の詳細と、金融サービス事業が各顧客組織についてLEIを採用することで、どのように時間の節約、透明性の向上、業務の簡素化を実現できるかを説明しています。

このレポート「取引主体識別の新しい未来」および調査結果が記載された別の文書は、GLEIFのウェブサイトからダウンロードすることができます(以下の「関連リンク」を参照)。

オンボーディングの落とし穴

顧客の本人確認 (KYC) デューデリジェンスを含めた金融サービスでの取引主体識別の課題に関するGLEIFの調査では、新規取引主体のオンボーディングに現在使用されているプロセスは、多くの銀行セクター事業にとって非効率的であることが指摘されました。この調査では、金融機関の50%が顧客組織を特定するために平均4つの識別子を使用していることがわかりました。

これは現実的に、シニア・セールスパーソンにとって何を意味し、広範な事業にどのような影響を与えているのでしょうか?またその状況を改善するために何ができるでしょうか?

顧客組織のオンボーディングにおける主な課題

使用している識別子の質に関して企業がどのような種類の課題に直面しているかについては明確なコンセンサスがあります。信頼性、矛盾、時間という同じテーマが繰り返し出てくるのです。アンケート回答者の49%が、オンボーディングに関連して主な負担となっているのはミドルオフィスからバックオフィスの作業だと述べています。さらに、シニア・セールスパーソンの57%が、1週間に1日半以上をオンボーディングに関連した作業に費やしています。その結果、新しい取引主体のオンボーディングには平均6週間かかっています(4つ以上の識別子が使用されている場合には7週間)。しかし回答者は何に時間がかかっているのかについては明解ではありませんでした。最も時間をとられるものとして、KYCデューデリジェンスを挙げる者もいれば (18%)、書類管理 (16%) や取引主体の識別 (15%) を挙げる者もいました。

透明性や可視性の欠如はリスク管理に影響を及ぼす

これらの要因は、広範なビジネスに膨大な影響を及ぼします。複数の識別子に関連する問題には、矛盾する情報、複雑なプロセス、リソースの損失、透明性の著しい欠如などがあります。回答者の46%は、企業構造の識別と報告における透明性の欠如は、金融機関の規制遵守にとって悪い前兆となると認識しています。曖昧さはリスクの正確な評価を困難にし、自信、可視性、管理力を伴ったオンボーディングや取引の決定を行えなくなります。最終的には、個々の企業と業界全体の両方が、不正や市場の濫用の影響を受けやすくなります。

オンボーディング・プロセスの長さや複雑さは潜在顧客の獲得に影響を及ぼす

時間の損失と透明性の妨害と同時に、より大きな事業上の問題も危険にさらされています。この調査によると、顧客組織はコンプライアンス規制が金融サービス事業に課した要求を必ずしも支持するわけではありません。回答者の半数 (50%) は、KYC規制の遵守はますます難しくなっていることに同意しています。特定された上位の課題には、オンボーディング・プロセスの長さや複雑さが原因で取引を失うリスク (39%)、誰が文書の閲覧やアクセスを許可されるかについての顧客のセキュリティ上の懸念 (38%)、KYC規制の継続的な変更 (37%) などがあります。

支持しないということは、オンボーディング・プロセスに時間がかかりすぎると感じる顧客組織は、ビジネスをよそに移す意思があることを意味します。十分な情報を収集できないことを通じて、または単に新規取引主体側の忍耐の欠如によって、取引の喪失が、このプロセスの非常に現実的な結果になりうるとして注目されています。調査の回答者は、顧客がこのプロセスに忍耐を失う結果としてビジネスの15%が危機にさらされ、顧客の身元が確認できないことが理由で14%が失われると考えています。皮肉なことに、もちろん、取引主体を識別するプロセスはどこで行われても、迅速になるわけではありません。調査は、金融機関の大半が、新規取引主体のオンボーディングに4つ以上の識別子を使用していることを示しています。よって、同様の非効率性に甘んじているのです。

LEIはプロセスをどのように改善するのか

では、このプロセスを改善し、時間を短縮して透明性を向上させ、最終的には失われる取引額を削減するには、どうすればいいのでしょうか?回答者の52%がオンボーディングに要する時間は今後12ヶ月でさらに増大すると考えている事実を踏まえると、1つの識別子に整合させて効率性を高める明白な機会が存在します。

銀行は複数の管轄区で営業しているため、グローバルな標準が必要です。LEIは企業に対し、取引主体の検証に関する標準化されたワンストップアプローチを提供します。

金融サービス事業は、各顧客組織についてLEIを採用することで、KYCのプロセスをさらに透明化して業務の簡素化を実現することができます。LEIを使用することにより、国際金融市場の安定性を高めて金融データ全体の高い品質と正確性をサポートすることも可能になります。しかし、企業は、よりスムーズなオンボーディング、不一致の削減、ビジネスを失うリスクの低減、貴重なリソースをさらに効率よく使用できるなど、個々に恩恵を受けることもできます。

バラバラに存在し分断されている情報を広範なLEIの採用に基づくグローバルに受け入れられるアプローチで置き換えることにより、事業取引の複雑さが解消され、金融サービス会社に数量化可能な価値がもたらされます。

マッキンゼー・アンド・カンパニーとGLEIFの共同ホワイトペーパー 「取引主体識別子:固有カウンターパーティ識別子の価値」(The Legal Entity Identifier: The Value of the Unique Counterparty ID (以下の「関連リンク」を参照)で指摘されているように、LEIを資本市場オンボーディングと証券取引処理に導入することで、年間の取引処理とオンボーディングのコストが10パーセント削減できると推定されます。これが資本市場の業務コスト全体を3.5パーセント削減することにつながり、世界の投資銀行業界だけで年間1億5,000万米ドル超のコストが削減されます。

さまざまな非効率的なプロセスの結果として、非常に多くの企業、特に金融サービス業界において、事業取引を行うたびに膨大な時間と費用が失われています。顧客に対してLEIを採用する企業は、これを過去のものにすることができます。

詳細な情報については、「取引主体識別の新しい未来」と題するレポート全文をお読みください。金融サービスにおける顧客の識別に関するGLEIFの調査結果が詳細に記載されており、本ページ下からダウンロードすることができます。

取引主体識別におけるデジタル技術の台頭が顧客オンボーディングに与える影響に関する調査結果を分析する、次回のブログにもご注目ください。

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著者について:

シュテファン・ヴォルフはGlobal Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF)のCEOです。2023年、彼はドイツ国際商工会議所(ICC)の理事に就任しました。2021年には、グローバルICCデジタル標準イニシアティブ(DSI)の下部委員会として新設された産業諮問委員(IAB)に任命されました。この任のもと、信頼できる技術環境に関するワークストリームの共同議長を務めています。ヴォルフ氏は、2017年1月から2020年6月まで国際標準化機構金融専門委員会FinTech専門諮問グループ(ISO TC 68 FinTech TAG)の副コンビナーを務めていました。2017年1月、ヴォルフ氏は、One World Identityが選ぶトップリーダー100人のひとりに選ばれました。ヴォルフ氏は、データ処理およびグローバルな実施戦略の確立に関して、豊富な経験を持っています。彼はキャリアを通じて、主要なビジネスや製品開発戦略の発展をリードしてきました。また、彼は1989年にISイノベーティブ・ソフトウェア社を共同設立し、初代専務取締役を務めました。その後、同社の後継企業であるIS.テレデータAG取締役会のスポークスマンに選ばれました。同社はその後、インタラクティブ・データ・コーポレーションに買収され、ヴォルフ氏は最高技術責任者に就任しました。彼はフランクフルト・アム・マインのJ.W.ゲーテ大学で経営学の学位を取得しています。


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顧客関係管理, データ管理, Global Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF), グローバルLEIインデックス, 顧客の本人確認(KYC), LEIのビジネスケース, LEI ニュース, オープンデータ