取引主体識別子(LEI):信頼できる取引主体の識別に関する世界のベストプラクティスは、アフリカの経済成長の持続にどのように貢献できるか
信頼できるID: アフリカ経済の将来のための重要な要因
2016年に生じた大陸全体におよぶ景気後退に対して、アフリカの経済は回復力を示しました。アフリカ開発銀行は、2019年のアフリカ大陸のGDP成長率を4%と予想しており、2018年3月に合意に達したアフリカ大陸自由貿易圏の設立協定により、世界最大の自由貿易圏が誕生しました。将来の適切な状況においては、アフリカ大陸が国際舞台の主要な経済勢力になる可能性があります。
成長機会が極めて多いことを踏まえると、取引の成功をもたらす状況を創出する上で信頼できるIDが果たす役割を認識することが、かつてなく重要になっています。取引を行う際、ビジネス相手に関する知識は、リスク緩和、不正対策そしてその後の取引の成功や失敗(あるいは経済であっても、規模を考慮した場合)にとって重要な要因です。
貿易金融に関しても、信頼できるIDは同様に重要です。アフリカ開発銀行の試算によると域内では1,200億ドルに達するアフリカの貿易のファイナンス・ギャップが生じていることから、検証済みIDの欠如など資金調達の障害になるものを最小限に抑えるために、実行しうることはなんであれ熱心に追求すべきです。
しかしながら、世界の発展途上国では、経済活動の50%以上が未登録の主体、つまり透明性の高い認証情報を持たない企業によって行われていると推定されています。信頼できるIDがないことは域内外の貿易への参加の障害となり、それによって企業が、サプライチェーン、決済、前述のファイナンスなど、重要なサービスから切り離されてしまうこともあり得ます。極端な状況では、これにより腐敗や詐欺への脆弱性が高くなる可能性があり、この結果として全体的な景気悪化や開発支援への依存が生じています。
GLEIFは、経済の繁栄は取引上の信頼から始まるというビジョンを支持しています。取引上の信頼は、世界中の企業のための共通かつ透明性の高い識別のメカニズム、つまり取引主体識別子(LEI)によって経済に組み込むことができます。
取引主体識別子とは何か?
企業は、国際標準化機構(ISO)が定めたISO 17442に基づく20桁の英数字コードであるLEIを登録できます。LEIは、社名や取引主体の所有構造(「誰が誰か」や「誰が誰の親会社なのか」を詳述した)など取引主体について説明した主要参照情報に関連付けられており、サードパーティのソースとの比較検証済みとなっています。LEIは、Global Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF) が維持管理を行っている、グローバルLEIインデックスと呼ばれるオンライン・グローバル・ディレクトリに対応する参照データと共に公表されます。これは、オープンで標準化された高品質の取引主体参照データを提供する唯一のグローバルなオンライン情報源で、自由に入手できます。LEIは、世界の市場に透明性をもたらしています。
GLEIF: 透明性と簡素化に根差す
これまで、世界レベルで取引主体を正確に識別することは、複雑で時間を要し、費用がかかる作業でした。LEIが誕生する前は、取引主体に関する標準化され一貫性のあるデータが組み込まれた、オープンで最新の単一データベースが存在しなかったことから、識別プロセスは、複数の情報源にわたる広範囲な手作業による確認に依存し、その多くは識別子よりも社名を用いていた可能性があるため、混乱が生じていました。たとえば、大手銀行のクライアントサービス部門では、最近、自行のデータベースに同一の組織について、わずかな相違がみられる平均5つの名称が含まれていることが判明しました。同一の会社、事業、司法管轄などの様々な部門にわたり、世界規模でこの種の名称の不一致が生じているため、複数の情報源から取引主体に関する情報を追跡し、結び付けることが極めて困難になっています。過去においては透明性の欠如が金融危機、市場の混乱、不正を誘発しました。
2008年の金融危機勃発を受けて、規制当局と資本市場のプレイヤーは、リーマンブラザーズとその数百にのぼる子会社のポジションを抱えていた市場参加者の範囲を迅速に査定する必要がありました。これにより、全体的な親会社レベルではなく、取引主体レベルでのエクスポージャーを特定して把握するシステムに対する重要なニーズが明らかになりました。こうした状況を改善する目的から、金融安定理事会(FSB)は、G20で代表権を持つ財務相や中銀総裁とともに、金融取引に関わるすべての取引主体に対する世界共通のLEIの開発を提唱しました。FSBはその後、LEIの導入と使用を支援するGLEIFを設立しました。
LEIがなぜ経済成長に重要なのか?
現在まで、LEIに関連する規制措置は、主として規制報告や金融商品取引の監督におけるLEIに関連した取り組みに集中していました。これは、金融危機後のLEI標準の導入により、当局がシステミックリスクや台頭するリスクを評価し、トレンドを特定して是正措置を講じる能力の強化を当面の目標としたことが背景にあります。ただ、現在の義務化の範囲を超えて、あらゆるセクターの市場参加者全員が信頼ある共通の取引主体識別メカニズムを使用することでもたらされるマクロ経済面のメリットは、あらゆる企業にとっての金融包摂の機会、リスク管理の強化、複数の名称に関する不正への対処能力向上など、豊富に存在します。
LEIは企業の問題をどのように解決するのか?
経済的なメリットの他にも、LEIは企業に多大なメリットをもたらします。GLEIFのある報告書は、金融サービスにおける取引主体識別に伴う課題を調査しています。「取引主体識別の新しい未来」 では、新規企業のオンボーディングは、合理化プロセスの欠如により、最大級の問題となっていることが明らかされています。銀行のセールス担当者の半数以上(57%)が、新規クライアント組織のオンボーディングに週の勤務時間の27%(1週間当たり1.5日以上に相当)を充てていると述べています。オンボーディングにおいて顧客組織を特定するために平均4つの識別子を用いる金融機関が半分以上存在することを考慮すると、処理全体に非効率性が蔓延していることは明らかです。
問題が深刻化しているのは、これらの非効率性が企業に重大な影響をもたらしているためです。回答者の39%は、オンボーディング・プロセスの長さや複雑さが原因で取引を失うリスクを指摘し、15%は顧客がこのプロセスに忍耐を失う結果として新規契約が危機にさらされる、14%が顧客の身元が確認できないために取引を失うと考えています。
これらはいずれの企業にとっても重要な数字であり、顧客組織へのLEIの採用がどのように、よりスムーズなオンボーディング、顧客経験の向上、ビジネスを失うリスクの削減、効率性最適化につながるかをはっきりと示しています。たとえば、この報告書は、資本市場のオンボーディングと証券取引処理へのLEIの導入によって、年間の取引処理とオンボーディングのコストを10パーセント削減できることを明らかにしています。これにより、世界の投資銀行業界だけで、資本市場の業務コスト全体の3.5%を削減(年間1億5,000万米ドル超の節減)できると考えられます。これらは重大な調査結果であり、金融サービス以外のビジネスコミュニティに広範に採用した場合を推定すれば、LEIが多くの企業にどれほどの効率性をもたらせるかが示唆されるでしょう。
LEI:なぜアフリカなのか、なぜ今なのか
最近の規制改革によって、アフリカの銀行セクターは統合され、これまでよりも強く弾力性のある業界となりました。現在、アフリカ大陸全体でサステナビリティ(持続可能性)に関心が集まっているため、コスト削減や、オンボーディングと取引の簡素化を実現する、1つのグローバルなデジタル識別を採用することで、銀行セクターが将来も有効に使い続けられる更なる方法を検討する機会が生じています。これによって市場に対する理解も深まると考えられます。
マクロレベルでは、アフリカ経済は好調を保ち、アフリカ大陸のデジタル・トランスフォーメーションの旅も進歩を遂げています。LEIは、現代のデジタル世界に存在する真のニーズを満たしています。一つのグローバル・デジタル識別を活用することで、地球上に存在する数百万社の取引主体を一意に一貫して透明性の高い方法で識別できるようになります。それによって、国際貿易の成功に最適な条件を構築するために必要な信頼性がもたらされます。LEIは、すべてのオンライン取引上の取引主体の素性に確実性をもたらし、グローバルなデジタル市場に誰もが容易に参加することを可能にします。
サイロ化された情報を標準化されたアプローチで置き換えることにより、LEIは、企業の取引から複雑さを取り除き、ビジネスの相手について、よりスマートかつ低コストで信頼性の高い意思決定を行えるようにします。
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著者について:
シュテファン・ヴォルフは、2014~2024年にGlobal Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)のCEOを務めました。2024年3月以降は、国際商業会議所(ICC)の産業諮問委員会(IAB)でデジタル貿易基準の調整、採用、取り組みにまつわるグローバルプラットフォーム、デジタル標準イニシアティブを率いました。IABの議長に任命される前は2023年からIABの副議長を務めており、同年、ヴォルフはドイツの国際商業会議所(ICC)の理事にも選出されました。
ヴォルフ氏は、2017年1月から2020年6月まで国際標準化機構金融専門委員会FinTech専門諮問グループ(ISO TC 68 FinTech TAG)の副コンビナーを務めていました。2017年1月、ヴォルフ氏は、One World Identityが選ぶトップリーダー100人のひとりに選ばれました。ヴォルフは、データ処理およびグローバルな実施戦略の確立に関して、豊富な経験を持っています。彼はキャリアを通じて、主要なビジネスや製品開発戦略の発展をリードしてきました。また、彼は1989年にISイノベーティブ・ソフトウェア社を共同設立し、初代専務取締役を務めました。その後、同社の後継企業であるIS.テレデータAG取締役会のスポークスマンに選ばれました。同社はその後、インタラクティブ・データ・コーポレーションに買収され、ヴォルフ氏は最高技術責任者に就任しました。彼はフランクフルト・アム・マインのJ.W.ゲーテ大学で経営学の学位を取得しています。
この記事のタグ:
データ管理, Global Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF), デジタル識別, 顧客の本人確認(KYC), LEIのビジネスケース