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著者について:
アラン・ディートン氏は、LEI規制監視委員会の議長です。彼は現在、米連邦預金保険公社 (FDIC) の預金保険及び調査研究局の参事を務めています。また、預貯金取扱金融機関から回収された重要データを管理し、様々なデータ管理システムを維持して、公的な使用向けにデータを公開するチームを監督しています。そして、1997年からFDICで働いており、プロジェクト管理、データ管理、財務分析、経済分析の役職に就いています。
金融業界で働く人の多くは、LEIについてと、それが決済、証券業界やデジタルのサプライチェーンにもたらす価値について熟知しています。実際に、業界の代表者の多くは、取引主体の単一の固有識別子として機能するこの20文字の英数字からなるコードが、金融業界を超えてさらに大きな役割を果たす可能性を認識しています。リスクを特定して管理することの潜在的な重要性は、とりわけ、ますますデジタル化する社会が世界的なパンデミックが経済に与えた影響からの回復を模索する際に、見過ごすべきではありません。通常業務が始まれば、リスク緩和に裏付けられた成長と安定性が重要な優先事項になります。
LEIのレガシー: 金融市場に安定性と成長を推進
LEIの発端は2008年の金融危機です。当時は過去数十年間で最大の景気後退に直面し、米国だけで900万人が職を失いました。景気後退の煽りを受けて、500行近くの銀行が倒産しました。米国が受けた金融危機の累積コストは10兆から14兆ドル、年間GDPのおよそ80パーセントに及ぶと推定されています。そのような損失を被ったのは、米国だけではありません。同様な話は世界中にあり、欧州からアジアまで極端な市場介入が求められました。
経済危機の原因は、現在の世界の状況ではまったく異なっています。専門家は、2008年の景気後退が、一部には世界の金融システムが高度に集中化し、相互接続され、最も大事なことは、不透明になっていたことに起因していたと言う点で一致しています。革新的な商品とメカニズムが、米国の住宅購入者と世界中の金融会社や投資家とを結びつけました。そうした企業の一つがトラブルの兆候を示したとき、その取引先は潜在的な損失へのエクスポージャーを評価しようと躍起になりました。同様に、一部には取引主体や商品を表す金融データを特定して結びつける業界全体と世界的な基準が存在していなかったため、金融規制当局はそうした破綻がもたらすどうなるか分からない結末と取り組みました。
危機の後で、世界の主要国の首脳らがG20や金融安定理事会(FSB)を通じて作業を行ない、これらの障害を克服するのに役立つ協調した解決策の開発に合意しました。その結果、グローバルLEIシステムが誕生しました。規制当局、業界や未公開企業など世界中のステークホルダーが、手を取り合って作業して、取引主体を識別するグローバルな標準を開発したのです。この官民連携は非常に成功し、220カ国以上の150万社以上にLEIが発行されました。
グローバルLEIシステムは、投資家にとっての透明性を高め、金融企業の報告負担を減らし、市場の規律と効率性を促進しています。将来類似の経済的影響が生じるのを防止する努力の一環として、2008年の金融危機の根本原因の一つにも対処しています。この取り組みの成功は、公共財を促進させる連携力のすばらしさを物語っています。
LEI ROCの議長として、私はこうした達成を誇りに思っています。しかし、まだすべきことはあります。世界中の市場の透明性と効率性を高める取り組みが、いくつかの分野で続いています。たとえば、2019年10月に、FSBはグローバルに整合した固有商品識別子(UPI)のガバナンスの取り決めを確立しました。これは店頭デリバティブの取引報告データの効果的な利用を促進し、当局がシステミックリスクを評価し、市場での不正を検出するのに役立ちます。金融危機により特定された重要問題の一つは、デリバティブ市場における透明性の欠如でした。
今後について: 金融界以外のLEIの可能性
公共政策と金融安定化の目標を実現しながら、LEIは商業ビジネスのニーズを後押しする上でも有益になってきました。企業に対するメリットとしては、規制遵守のコストを削減できる可能性に留まらず、事業主体決議コストの削減、効率性の向上、およびオペレーションリスクの改善があります。グローバル取引主体識別子に対する企業のニーズが、大企業でも中小企業でも、金融でも非金融でも、あらゆる種類の企業で明白になっています。世界中の市場に影響を及ぼしている世界的なパンデミックからの力強い回復を模索する企業にとって、成長、効率性および安定性を促進するベストプラクティスのメカニズムは不可欠です。同時に、サプライチェーンはますますグローバルかつデジタルになりつつあります。それは、ビジネスパートナーを識別するための一層厳格で透明性のあるシステムを要求します。LEIは、そうした高品質な取引主体の識別を実現する有望な候補です。オープンかつ自由に利用できる取引主体参照データのソースとして、採用が広範に広がり、企業の識別、その同族構造や取引先の識別に利用されるにつれて、その有用性は高まる一方です。LEIをデジタル業務プロセスの中に組み込むことが、ビジネスコミュニティと公共政策立案者の関心を一段と高めていくでしょう。
2019年に、FSBは、今日までのLEIの採用の成功と不備を取り上げたLEI実施のピアレビューを公表しました。その中で、LEIのメリットは、とりわけ、カウンターパーティリスク、相互関連性や複雑なグループ構造の規制面と民間部門の分析に役立つなど、相当なものであることを指摘しています。FSBは、同ピアレビューの中で、LEI ROCとGLEIFが業界や公共部門と連携して、LEIのメリットの認知度を向上させ、市場参加者の利用事例を提示し、パイロットプログラムやリサーチプロジェクトを支援することによって、採用の拡大を促すことを推奨しました。
LEI ROCは、グローバルLEIシステムとそれがもたらすメリットへの共通利益を前進させるべく、民間部門とのオープンで建設的な対話に引き続き熱心に取り組んでいます。GLEIFの定期的な「Meet the Market」イベントは、ROCとGLEIFの両方に、ビジネスコミュニティからの多様な専門家グループに働きかけ、LEIが企業が業務を営む環境をどのように改善するのかを話し合う完璧な機会を提供しています。
グローバルLEIシステムの公共政策とビジネスプロセスの抱える課題を解決する上で究極の成功を収めるには、引き続きグローバルな規制コミュニティ、民間部門企業と業界団体からの支援が必要でしょう。LEI ROCを代表して、私は、共同でグローバルLEIシステムを前進させ、それが容易に手の届く範囲でもたらす数多くのメリットを実現できるよう、あらゆるステークホルダーとの対話を心から歓迎します。
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アラン・ディートン氏は、LEI規制監視委員会の議長です。彼は現在、米連邦預金保険公社 (FDIC) の預金保険及び調査研究局の参事を務めています。また、預貯金取扱金融機関から回収された重要データを管理し、様々なデータ管理システムを維持して、公的な使用向けにデータを公開するチームを監督しています。そして、1997年からFDICで働いており、プロジェクト管理、データ管理、財務分析、経済分析の役職に就いています。