カウンターパーティ識別から事業価値へ:貿易金融におけるLEIの利用
マッキンゼー・アンド・カンパニーとGLEIFが共同作成したホワイトペーパーは、貿易金融を手掛ける銀行がLEIを利用すると信用状の発行で年間最大5億ドルを節約できることを確認
マッキンゼー・アンド・カンパニーとGlobal Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)が最近リリースしたホワイトペーパー 「取引主体識別子:固有カウンターパーティ識別子の価値」(The Legal Entity Identifier: The Value of the Unique Counterparty ID ) (以下の「関連リンク」を参照)では、取引主体識別子(LEI)の広範な適用の潜在性を示す3つの利用事例を検討しています。網羅的になるようには意図されていませんが、これらの利用事例は、資本市場、商取引、商業融資の拡大に関連しています。この利用事例は、特に大企業、中小企業、銀行、投資銀行に関係しています。
このブログでは、貿易金融におけるLEIの利用を詳しく見ていきます。貿易金融を手掛ける銀行は、LEIを利用すると信用状の発行で最大5億ドルを節約することができます。
貿易金融におけるLEIの利用
商取引のライフサイクルは複雑で、商品の発注、商品の請求書の送付、貿易金融の獲得、商品の製造、支払の照合、商品の納品・受領を伴います。このリストは無限です。本ホワイトぺーパーは、LEIを利用すれば、このライフサイクルの請求書作成と貿易金融の要素に相当なインパクトが生じる可能性があるとの認識を示しました。
商取引のライフサイクル全体において、取引を完了させるには、複数の手作業による時間のかかる業務が必要となります。これは、とりわけ国際貿易に当てはまります。特に、取引の相手方の身元確認には、手作業による処理を多く伴います。LEIを利用すれば、商取引の身元確認を自動化でき、請求書作成と貿易金融の手順に伴う複数の業務のデジタル化が実現されます。さらに、為替手形決済に要する時間を潜在的に削減できるでしょう。
貿易金融には、国際貿易を円滑にするための様々な商品サービスを伴います。LEIと最も関連性の高い適用としては、買主は売り手への支払を円滑に行うために銀行から信用状や為替手形を取得して、売主は購入注文書や請求書を利用して、製造や購入のための融資を得ます。信用状を取得してそれを使用するためのプロセスは、とりわけ時間がかかり、複数の手段を伴うことが一般的で、その多くは身元の確認と照合が必要になります。リスクの緩和とマネーロンダリング対策(AML)の規制への遵守のために、買主と売主双方の銀行は取引の相手方の確認を複数回実施する必要があります。これらの管理は、現時点では手作業による処理と書類作業に大きく依存しています。さらに、銀行は、これらの確認に複数のデータベースを活用していますが、複数の取引主体が類似する社名を使用している場合があるため、取引主体の名称のみでの検索には大きなリスクを伴います。
こうした手作業による確認は、LEIを利用すると大幅に合理化することができ、コストを大きく削減できます。LEIの利用により、取引主体の識別のデジタル化を直ちに実現して、身元確認・調査に費やされる時間とリソースを大幅に削減できるでしょう。このように効率が向上すれば、AMLや他のコンプライアンスのリストに基づく誤検出の発生による悪化も減らせるでしょう。社名で検索するよりもむしろ、金融機関は、各取引主体の固有のLEIを利用して関連データベース、つまり最先端の単一データベースのみで検索することができるのです。
LEIを利用すれば、AMLの取り組みを円滑にするだけでなく、不正リスクも軽減することができます。売主の銀行は、取引主体のLEIを利用して請求残高を追跡し、同一積荷に対する複数の請求などの疑わしい取引を識別できる可能性があります。
本質的に、LEIによって、取引主体の確認と取引主体の履歴追跡という複雑なプロセスにおける、2つの重要業務が大幅に簡素化されます。銀行は、LEIを国際的な取引主体の確認に用いて信用状の発行の履歴追跡を自動化すれば、年間合計で2億5,000万米ドルから5億米ドルのコスト削減を見込めることになります。最大限の効果が生じれば、これらの削減額は現在の世界の貿易業務のコスト基盤全体の4%に相当するでしょう。この試算の下限は、採用率が欧州と北米では高くアジアでは低いと想定して、試算の上限は世界全体で採用率が高いと想定しています。
こうした効率性と同様に、LEIを利用すれば、銀行が取引主体に対してより全体的な視点を維持できるのでリスク管理の向上も促されます。
より一般的には、共同作成されたホワイトペーパーは、LEIが世界全体で採用されれば、投資銀行業界で1億5,000万米ドル以上の年間コスト削減が見込めるとも指摘しています。これには、LEIの利用による顧客オンボーディングと取引処理に関する業務費用全体の10%削減が含まれます(資本市場でLEIの利用により得られる潜在的なコスト削減と効率性の詳細については、以下の「関連リンク」に言及されたGLEIFブログ記事も参照してください)。
GLEIFでは、組織に対して日々のプロセスへのLEIの採用を積極的に呼びかけており、本ペーパーによってLEIの利用の可能性に関する理解が広まり、コスト削減と効率向上のもたらすメリットについてますます議論に拍車がかかることを期待しています。LEI利用の可能性は、現時点での理解をはるかに超えており、GLEIFは、様々なセクターの他の組織と連携してこの考えに関する調査に本腰を入れています。
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著者について:
シュテファン・ヴォルフは、2014~2024年にGlobal Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)のCEOを務めました。2024年3月以降は、国際商業会議所(ICC)の産業諮問委員会(IAB)でデジタル貿易基準の調整、採用、取り組みにまつわるグローバルプラットフォーム、デジタル標準イニシアティブを率いました。IABの議長に任命される前は2023年からIABの副議長を務めており、同年、ヴォルフはドイツの国際商業会議所(ICC)の理事にも選出されました。
ヴォルフ氏は、2017年1月から2020年6月まで国際標準化機構金融専門委員会FinTech専門諮問グループ(ISO TC 68 FinTech TAG)の副コンビナーを務めていました。2017年1月、ヴォルフ氏は、One World Identityが選ぶトップリーダー100人のひとりに選ばれました。ヴォルフは、データ処理およびグローバルな実施戦略の確立に関して、豊富な経験を持っています。彼はキャリアを通じて、主要なビジネスや製品開発戦略の発展をリードしてきました。また、彼は1989年にISイノベーティブ・ソフトウェア社を共同設立し、初代専務取締役を務めました。その後、同社の後継企業であるIS.テレデータAG取締役会のスポークスマンに選ばれました。同社はその後、インタラクティブ・データ・コーポレーションに買収され、ヴォルフ氏は最高技術責任者に就任しました。彼はフランクフルト・アム・マインのJ.W.ゲーテ大学で経営学の学位を取得しています。
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顧客関係管理 , データ管理 , データ品質 , グローバルLEIインデックス , Global Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF) , 顧客の本人確認(KYC) , LEIのビジネスケース , オープンデータ , リスク管理