カウンターパーティ識別から事業価値へ:資本市場におけるLEIの利用
マッキンゼー・アンド・カンパニーとGLEIFの共同ホワイトペーパーが、資本市場の顧客関係のライフサイクル全体にわたるLEIの追加的適用を特定
マッキンゼー・アンド・カンパニーとGlobal Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)が最近リリースしたホワイトペーパー 「取引主体識別子:固有カウンターパーティ識別子の価値」(‘The Legal Entity Identifier: The Value of the Unique Counterparty ID’ ) (以下の「関連リンク」を参照)は、資本市場の顧客関係のライフサイクル全体にわたる取引主体識別子(LEI)の適用を明確に例示しています。LEIの主たる価値は、株式、債券およびその他の証券取引に関連する顧客オンボーディング、ミドル・バックオフィス業務のコスト削減から生じます。
このブログでは、オンボーディングのプロセスにおけるLEIの利用を詳しく見ていきます。しかし、その社内業務における適用も重要です。社内業務チームは、別の社内システムに保存されて様々な顧客ID番号によってタグ付けされることが多い、顧客取引情報を集計し照合する主要属性として、LEIを展開することが多くなっています。彼らは、LEIの利用により社内コミュニケーションや取引照合関連タスクが単純化され促進されることに気が付きました。
資本市場におけるLEIの利用
米国のドッド・フランク法や欧州市場インフラ規制が実施されたことで、LEIの利用が業界の中で広く普及しました。それ以来、銀行は店頭(OTC)デリバティブ取引におけるカウンターパーティの即時識別能力以外の利点も発見しました。とりわけ、LEIには資本市場の顧客関係のライフサイクル全体にわたる追加的適用があることを見出しました。
LEIを活用してビジネスの価値を高める: 顧客オンボーディング
銀行がLEIを効果的な識別子として使い始めるもう一つの分野として、顧客オンボーディングが浮上してきました。これは、顧客の本人確認(KYC)要件や文書管理に関連した活動について、特に当てはまります。
KYCのプロセスでは、厳格なデューデリジェンスを実施することにより、企業は顧客の身元を検証する作業を行います。こうしたプロセスの間に一貫性がなければ、銀行は取り組みに相当な時間とリソースを費やすことになります。面倒なことに、銀行の様々な分野で同一顧客に異なる識別子を使用する場合があり、銀行と契約してKYC関連情報の収集を手助けするベンダーも独自の識別子を使用する場合があります。実際、単純なはずの業務が、複雑で時間を要するリソース集約的な取り組みになっています。
これに加えて、顧客が受ける結末が悲惨なものになる可能性があります。例えば、顧客が迅速に資金を調達する必要がある場合、債券または株式の売却注文を出すことがあります。しかし、銀行は取引主体IDではなく口座番号にタグ付けされた文書を探すのに苦労する場合があり、その結果、顧客口座で取引ができない可能性があります。
それに対して、プロセスのすべてのプレイヤーがLEIを用いて顧客情報をタグ付けしていれば、はるかに効率的になり透明性が高まります。プロセスの単純化とより優れた顧客サービスの実現以外にも、LEIは正規従業員の能力を拡大し、銀行が顧客とのビジネスをより速く行えるようにもしてくれます。通常、投資銀行にはオンボーディングに注力する1,000人から1,500人の正規従業員がいて、マッキンゼーによれば、オンボーディングプロセスに平均で120日を要しています。LEIがより広範に採用されれば、オンボーディング期間が大幅に短縮でき、銀行は顧客との取引をより早く開始できるうえ、オンボーディングチームは他のファンクションを行うことができるようになります。
本ホワイトペーパーの結果として、LEIを資本市場オンボーディングと証券取引処理に導入することで、年間の取引処理とオンボーディングのコストが10パーセント削減できると推定されます。これが取引処理と資本市場オンボーディングのコスト全体を3.5パーセント削減することにつながり、世界の投資銀行業界だけで年間1億5,000万米ドルのコストが削減されます。
LEIを取引処理やオンボーディングにまだ採用していない銀行は、効率性、スピードおよび顧客サービス改善の面でメリットを享受することが可能です。より多くの取引主体がLEIを取得すれば、すべての銀行が受けるメリットが大幅に拡大します。具体的には、顧客との取引に要する「市場までの時間」が短縮されることで追加的な収益が期待できると同時に、顧客エクスペリエンスが改善されます。
GLEIFでは、組織に対して日々のプロセスへのLEIの採用を積極的に呼びかけており、本ペーパーによってLEIの利用の可能性に関する理解が広まり、コスト削減と効率向上のもたらすメリットについてますます議論に拍車がかかることを期待しています。LEI利用の可能性は、現時点での理解をはるかに超えており、GLEIFは、様々なセクターの他の組織と連携してこの考えに関する調査に本腰を入れています。
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著者について:
シュテファン・ヴォルフは、2014~2024年にGlobal Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)のCEOを務めました。2024年3月以降は、国際商業会議所(ICC)の産業諮問委員会(IAB)でデジタル貿易基準の調整、採用、取り組みにまつわるグローバルプラットフォーム、デジタル標準イニシアティブを率いました。IABの議長に任命される前は2023年からIABの副議長を務めており、同年、ヴォルフはドイツの国際商業会議所(ICC)の理事にも選出されました。
ヴォルフ氏は、2017年1月から2020年6月まで国際標準化機構金融専門委員会FinTech専門諮問グループ(ISO TC 68 FinTech TAG)の副コンビナーを務めていました。2017年1月、ヴォルフ氏は、One World Identityが選ぶトップリーダー100人のひとりに選ばれました。ヴォルフは、データ処理およびグローバルな実施戦略の確立に関して、豊富な経験を持っています。彼はキャリアを通じて、主要なビジネスや製品開発戦略の発展をリードしてきました。また、彼は1989年にISイノベーティブ・ソフトウェア社を共同設立し、初代専務取締役を務めました。その後、同社の後継企業であるIS.テレデータAG取締役会のスポークスマンに選ばれました。同社はその後、インタラクティブ・データ・コーポレーションに買収され、ヴォルフ氏は最高技術責任者に就任しました。彼はフランクフルト・アム・マインのJ.W.ゲーテ大学で経営学の学位を取得しています。
この記事のタグ:
顧客関係管理 , データ管理 , データ品質 , グローバルLEIインデックス , Global Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF) , 顧客の本人確認(KYC) , LEIのビジネスケース , オープンデータ , リスク管理