米国で住宅ローンのオリジネーターをしていますか?取引主体識別子(LEI)は、住宅ローン情報開示法(HMDA)の報告において義務付けられています
米消費者金融保護局(CFPB)によって、規制Cに基づくHMDAの新たな報告規則が採択されたことから、米国住宅ローン市場の消費者保護の強化にLEIが重要な役割を果たすことになるでしょう
これまで取引主体識別子(LEI)に関連する規制措置は、主として金融商品取引に関連する規制報告および監督における取引主体の識別に関連した取り組みに集中していました。住宅ローン情報開示法(HMDA)を施行する規制Cを修正した米消費者金融保護局(CFPB)の最終規則では、LEIの使用はかかる取引の範囲よりも拡大されています。具体的には、収集が求められる新しいデータポイントのうち、住宅ローンのオリジネーターのLEIと、やはりLEIを取り入れているユニバーサルローン識別子がHMDAに基づいて記録および報告されます。そのため、米国住宅ローン市場で消費者保護を強化する上で、LEIは直ちにかつ直接的に重要な役割を果たすことになります。このブログ記事では、HMDAに基づきCFPBによって採択された新しい報告規則にLEIがどのように組み入れられたかについて詳細にみていきます。
このブログの引用元は、「関連リンク」にまとめてあります。
住宅ローン情報開示法(HMDA): 簡単な沿革
HMDAは1975年に議会により制定され、規制Cによって施行されています。同法は、金融機関に対して、住宅ローンに関する情報を維持、報告、および一般公開するように義務付けています。HMDAに伴うデータ収集は元々、住宅ローン融資市場における透明性向上を促すために制定されました。HMDAは、金融機関がコミュニティの住宅ニーズに対応しているか、公共投資の分配において行政当局を支援しているか、差別的な貸付パターンの識別や差別禁止法制の施行を支援しているかの判断が得られるようにすることを目的としています。
米国でサブプライムローン市場が活況になり、その後バブルが崩壊して2008年に世界金融危機を誘発したとき、HMDAに基づき報告されていたデータポイントが限定的であったことから、行政当局はいくつも厳しい課題を突き付けられました。その後、公開されている住宅ローン市場のデータの内容と品質に対処するために、手段が講じられました。2010年、米議会は金融規制改革法(ドッド・フランク法)においてHMDAを改正し、HMDAの規則策定の権限およびその他の機能も、連邦準備制度理事会(FRB)からCFPBへと移されました。HMDAの沿革の詳細は、HMDAのCFPB専用ウェブサイトで閲覧できます(以下の「関連リンク」を参照)。
2015年最終規則、規制C:ローンオリジネーターに対してとユニバーサルローン識別子(ULI)の一部としてLEIの導入
その他の法改正のうち、金融規制改革法(ドッド・フランク法)では、住宅ローンの申込とローンに関連する情報の範囲が広がり、HMDAに基づいて編集、維持および報告が義務付けられています。同法は、ローンオリジネーターを識別する固有識別子と、担保不動産や住宅ローンへの担保提供の申し入れに対応する地番を、CFPBが「適切と判断する場合」に要求することを認めています。
抵当銀行協会の副会長兼規制カウンセルのKen Markison氏は、同協会が2017年7月に発行したMBA Insightsの記事の中で、次のように述べています。「2015年、CFPBはHMDA改正の意向について発表し、それを実現しました。[…] CFPBは、金融規制改革法(ドッド・フランク法)の制限に従っており、より多くのデータフィールドを作成するために権限を行使しました。」
その結果が、CFPBが2015年10月に公表した「最終規則:住宅ローン情報開示法(規制C)」でした。この最終規則は、「金融危機によって明らかになった情報に関する不備を改善し、住宅所有者、住宅購入希望者、全国の各地域のニーズに応えるため、HMDAのデータを更新する必要がある」というCFPBの考えを反映しています。
最終規則によれば、金融機関がHMDAデータを送信する際に、現行の報告機関の識別番号(HMDA RID)ではなくLEIを提供するものとされています。加えて、最終規則はユニバーサルローン識別子(ULI)の概念を導入しています。ULIはローンが存続する期間にわたり各ローンに固有のものになります。これは金融機関のLEIの後に最大25文字となります。CFPBの施行と手引きのウェブサイトでは、規則の施行と遵守を支援する有益な文書が多数提供されてます。
ローンオリジネーターとHMDAのULIの中にLEIを導入するメリット
HMDAの報告が初めて、ローン・オリジネーターを識別する際に開かれたグローバル識別システムに依拠することになります。これにより、HMDAデータの利用者は、グローバルLEIインデックス経由で自由に閲覧できるLEIに関係する主要参照情報の恩恵を得られます。重要なことは、CFPBが最終規則の中で、グローバルLEIシステムで入手可能な「誰が誰の親会社か」の直接および最終親会社の情報へのアクセスは新たな機会をもたらすと指摘している点です。具体的には、「LEIによって、データを報告する金融機関を識別し、その系列会社に結びつける能力が向上する可能性があります。金融機関の系列会社の識別が促されれば、データ利用者が差別的な貸付パターンの可能性を識別して、関連会社による市場活動やリスクの識別に役立たせることができます。」
また、ULIの導入とHMDAのULIへのLEIの組み込みも、HMDAの報告における新しい概念です。CFPBは、ULIの導入にはいくつかの利点があるとの考えの概略を説明しました。1つ目は、HMDAローンと申込全体のユニバースの中で、これが固有のローン識別子を保証することです。2つ目は、ローンを購入した金融機関に対して過去に報告済みのULIの報告を義務付けることにより、金融機関間で売却または譲渡された場合でも、単一ローンをその存続期間中に追跡できる可能性があることです。3つ目は、ULIの内容は借り手や申込者を直接識別するのに利用できないため、プライバシーに関する懸念に配慮がなされている点です。
加えて、Global Legal Entity Identifier Foundation (GLEIF)は、LEIをローンオリジネーターの識別に使用し、ULIにLEIを組み込めば、新たな消費者保護分析の可能性がもたらされると考えています。この次のセクションでは、いくつかの事例を示します。
ULIとLEIは共に、永続性のあるコードです。つまり、一度割り当てられれば、関連する取引主体が存続する期間を通じて、識別子が一貫性を持つのです。オリジネーターのLEIがULIに組み込まれていることから、データ利用者は、ローンがその後売却されたとしても、常にローンを追跡することができます。さらに、グローバルLEIシステムで入手可能な取引主体参照データの履歴のおかげで、その後統合や廃止がなされたとしても、ローンオリジネーターを追跡することが可能です。このため、長期的な企業構造の変化に関係なく、金融機関がコミュニティにおける住宅ニーズに対応しているかどうかを評価する能力が向上します。
「誰が誰の親会社か」の情報を取り入れたLEIデータプールが段階的に強化されていることから、ローンオリジネーターの所有構造や企業ヒエラルキーを把握することができます。直接および最終親会社に関する情報は、一般ユーザーが、グループ会社全体にわたりローンオリジネーターの違いを理解するのに役立つでしょう。例えば、一般ユーザーや金融機関でさえ、様々な子会社が発行するローンを比較して、同様な状況のオリジネーターについて変則があるかどうかを調査することができます。
最後に、グローバルLEIシステムは、ユーザーにLEIデータへの無料アクセスを保証します。フィンテック企業など、どの企業でも、この情報とHMDAの公開データを併用すれば、住宅ローン提供機関候補に関するより多くの情報を示して、消費者のローン探しを支援することができるでしょう。これには、グローバルLEIシステムを通じた取引主体参照データにおける特定の貸手の履歴や、コーポレートアクションの変化とは無関係なオリジネーターのローンの経時的性質などが含まれます。
CFPBは、消費者保護の強化のためにLEIを導入した草分け的存在です
LEIの取り組みは、2008年の金融危機をきっかけに開始され、その当時、世界中の規制当局は、様々な市場、商品、地域にわたる取引の当事者を特定できないことを認識しました。金融安定理事会(FSB)とG20は、金融取引に従事する取引主体に適用できる世界共通のLEIの開発を提唱しました。
LEIの導入に関する議論は、これまで主として規制報告と監督における取引主体の識別に関連した取り組みに集中していました。これは、金融危機後のLEI標準の導入により、当局がシステミックリスクや台頭するリスクを評価し、トレンドを特定して是正措置を講じる能力の強化を当面の目標としたことが背景にあります。
現在のLEIの数が示すように、こうした努力が素晴らしい結果を生みました。2017年9月末現在、デリバティブ市場を中心に、約58万6,000件のLEIが活動中の取引主体に割り当てられています。こうした取引主体の大半は米国と欧州連合(EU)を本拠地としており、これらの地域では、規制報告において取引の相手方を一意に識別するため、LEIを使用することが規制により求められています。これらの規制には、金融規制改革法(ドッド・フランク法)、欧州市場インフラ規制、改定を予定しているEU市場の第2次金融商品市場指令(MiFID II)と金融商品市場規則(MiFIR)などがあります。(規制によるLEIの使用に関する詳しい情報は、下記の「関連リンク」をご参照ください。)
しかしながら、規制Cを改正する最終規則が2018年1月1日から課すHMDAへの変更が差し迫っていることから、米国住宅ローン市場において消費者保護を強化する上で、LEIは直ちにかつ直接的に重要で価値のある役割を果たすことになります。これは、LEIにとって重要なマイルストーンであり、今やその価値は認知されて、このセグメントに義務付けられており、透明性向上と消費者保護の強化がもたらされてます。
とはいえ、GLEIFは、これが単なる最初の一歩になることを願っています。住宅ローン担保証券、権原保険、住宅ローン保険など、無数のわずかに関係するサービスおよび企業へのLEIの適用には莫大な機会が存在します。さらに、米国住宅ローン市場の消費者保護分野におけるLEIの重要性に関するCFPBの高官の証言は、その他の管轄区域の規制当局者に対して、透明性と説明責任の向上を必要とする市場セグメントにLEIの使用を考慮することを促す可能性があり、そうなる必要があるのです。
スケジュール
Ballard Spahr LLP は、最終規則では、「規制Cの『対象となる機関』の種別、規制Cの対象となる取引、対象となる機関が収集、記録、報告を義務付けられる特定の情報、データの報告と公開のプロセスに変更が加えられると表明しています。大半の規定は2018年1月1日に発効します。 対象となる団体は2018年に新しいHMDA情報を収集し、2019年3月1日に報告することになります。」
要するに、GLEIFは、HMDAの提出者に対して関連スケジュールに注意するように求めています。HMDAの提出者がLEIの報告、またはULIへのLEIの組み込みを今まで義務付けられていなかったことを勘案して、GLEIFは、HMDAの提出者に対して、2018年初頭に発生しうる報告活動を意識するように求めています。MERSCORP Holdingsのメンバー統合担当ディレクターのCamelia Martin氏は、MBA Insightsにおいて以下のように指摘しています。「新たなHMDAの要件は2018年1月まで施行されないものの、2017年終盤に初めて開始されるローンの申込や取引は、2018年の報告期間に発生する報告対象の取引になる可能性があります。また、各組織も、業務のプロセス、手順およびシステムにULI作成を取り入れるための十分な時間を必要とするでしょう。」
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著者について:
シュテファン・ヴォルフは、2014~2024年にGlobal Legal Entity Identifier Foundation(GLEIF)のCEOを務めました。2024年3月以降は、国際商業会議所(ICC)の産業諮問委員会(IAB)でデジタル貿易基準の調整、採用、取り組みにまつわるグローバルプラットフォーム、デジタル標準イニシアティブを率いました。IABの議長に任命される前は2023年からIABの副議長を務めており、同年、ヴォルフはドイツの国際商業会議所(ICC)の理事にも選出されました。
ヴォルフ氏は、2017年1月から2020年6月まで国際標準化機構金融専門委員会FinTech専門諮問グループ(ISO TC 68 FinTech TAG)の副コンビナーを務めていました。2017年1月、ヴォルフ氏は、One World Identityが選ぶトップリーダー100人のひとりに選ばれました。ヴォルフは、データ処理およびグローバルな実施戦略の確立に関して、豊富な経験を持っています。彼はキャリアを通じて、主要なビジネスや製品開発戦略の発展をリードしてきました。また、彼は1989年にISイノベーティブ・ソフトウェア社を共同設立し、初代専務取締役を務めました。その後、同社の後継企業であるIS.テレデータAG取締役会のスポークスマンに選ばれました。同社はその後、インタラクティブ・データ・コーポレーションに買収され、ヴォルフ氏は最高技術責任者に就任しました。彼はフランクフルト・アム・マインのJ.W.ゲーテ大学で経営学の学位を取得しています。
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住宅ローン情報開示法 (HDMA), 標準, 規制, コンプライアンス, リスク管理